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Aspergillus 由来のユニークな酵素に関する触媒化学的研究 Molecular and enzymatic studies of unique enzymes from Aspergillus 03D5502 多田羅洋太 指導教員 一島英治 SYNOPSIS A. oryzae pro-tyrosinase (pro-TY) has a unique feature that the proenzyme is activated under condition of pH 3.0. It was indicated that the homotetramer of pro-TY irreversibly dissociates to dimers at pH 3.0, and then the binuclear copper active center is exposed. It was suggested that the intermolecular disulfide bridge was formed between the subunits of the acid-activated tyrosinase (acid-TY). Cys108 residue was indicated to be involved in the disulfide bond. The retention of the dimer of the acid-TY by the disulfide bridge was essential for the activity. To investigate the catalytic mechanism of A. saitoi 1,2- -mannosidase, the seven conserved acidic amino acids were studied. Glu124 was estimated to be an acid catalyst. Negative charges at position Asp269 and Glu411 were essential for the activity. It was suggested that each of Glu273, Glu414 and Glu474 is a binding site of a substrate. Ca2+ is not required for the activity. The catalytic mechanism of Ca2+-independent 1,2- -mannosidase may deviate from the typical glycosyl hydrolases. A. saitoi 1,2- -mannosidase contains three conserved cysteines. Cys334 and Cys363 were involved in a disulfide bond, and Cys443 contained a free thiol group. The cysteines were not essential for the activity. It was demonstrated that Cys334 and Cys363 formed a disulfide bond and the Cys443 was involved in a hydrophobic interaction to stabilize the enzyme. Key words: Aspergillus oryzae, tyrosinase, acid activation, quaternary structure, A. saitoi, 1,2- -mannosidase, catalytic mechanism, calcium, disulfide bond, thiol group, hydrophobic interaction, site-directed mutagenesis. 1. 緒言 麴菌 (Aspergillus oryzae)は日本酒や醤油、味噌、味醂と いった日本のバイオ産業の主役となる微生物である[1]。麴 菌と近縁種である黒麴菌 (A. saitoi)は焼酎や酢の醸造に 用いられている。これらの菌の安全性と食に与える高い機 能性、嗜好性は、日本のみならず世界で注目されている。 麴菌は日本人が古来より親しんでいる菌であり、まさに日本 の「国菌」と言える[2]。 チロシナーゼは生体防御に関わるメラニンを生合成する 鍵酵素である。糸状菌におけるメラニンの役割としては、器 官の分化や胞子形成、病原性糸状菌の毒性、組織の損傷 に対する防御があげられる。チロシナーゼは日本酒の醸造 において、日本酒を褐色化してしまうため嫌われている酵 素である[3]。A. oryzae チロシナーゼは pH 3.0 において酵 素が活性化するという特異的な性質を持つ[4]。本酵素の四 次構造はホモ四量体であり、活性中心はサブユニットあたり 2 つの銅原子である。このような複雑な構造をした麴菌チロ シナーゼの活性化機構の解明を目指した。 糖タンパク質のアスパラギン結合型糖鎖は細胞内の情報 伝達機能を持つ[5]。1,2- -マンノシダーゼは、糖タンパク質 の糖鎖プロセシングに関与している酵素である。黒麴菌 A. saitoi 由来 1,2- -マンノシダーゼのバイオテクノロジーにお ける利用としては 2 つ挙げられる[6]。一つは高マンノース型 糖鎖の構造解析における利用であり[7]、もう一つは糖鎖構 造の分子設計への利用である[8]。 近年、糸状菌 P. citrinum 1,2- -mannosidase と阻害剤が複 合体を形成した X 線結晶構造が解析された[9]。阻害剤/ 基 質 と の位 置 関係 か ら 、 Glu122 (A. saitoi の酵 素で は Glu124)と Asp267 (Asp269)あるいは Glu409 (Glu411)の 2 残基が触媒反応に直接関与しうるアミノ酸残基であると推定 された。しかし、詳細な酵素化学的解析は行われておらず、 それらの残基の役割は実験的に明らかとなっていない。ま た Ca2+は 1,2- -マンノシダーゼ活性に必須であることから、 Ca2+は触媒反応に関与している可能性があるとされている。 本研究においては A. saitoi 1,2-α-マンノシダーゼに保存 されている 7 つの酸性アミノ酸残基について部位特異的変 異を導入し、変異酵素の動力学的パラメーターの測定から 酵素の触媒アミノ酸残基の同定を行う。 システインの硫黄原子は様々な酸化状態をとる。これによ り、タンパク質の安定性や金属結合、触媒活性、求核性な どといった広範囲にわたる化学的、生物化学的性質が見ら れる[10]。システインはしばしばジスルフィド結合を形成する。 ジスルフィド結合の役割としては、酵素活性や酸化ダメージ に対する防御、タンパク質のフォールディングと安定化、生 物学的反応の制御といったことがあげられる[11]。A. saitoi 1,2- -マンノシダーゼは 3 つの保存されたシステイン残基を 持つ(Csy334, Cys363, Cys443)。これらのシステイン残基の 役割を解明するために部位特異的変異と熱安定性につい て調べた。 2. A. oryzae チロシナーゼの酸活性化機構の解明 pro-TY は pH 3.0 において著しい活性化がおこった。この 酸活性化の過程は 20 分間でほぼ完了した。他の試薬など による活性化の有無を調べた結果、SDS が 0.01%のとき比 活性が acid-TY の 19%となりわずかな活性化が見られたが、 尿素やエタノール、アセトニトリル、NaCl、プロテアーゼ (trypsin と chymotrypsin)による活性化は見られなかった。 Determination of molecular mass by the gel-filtration chromatography. 266 165 68 380 68 Tetramer Dimer Monomer Oligomer Monomer 100 N.D. 1.3 b N.D. b a The b gel-filtration chromatography was performed in the presence of 2% The mutant enzyme was acid-activated before the enzyme assay. -mercaptoethanol at pH 7.0. Cys82 ☆ 230 Pro-TY Acid-TY Reduced a Oligo-C108A Mono-C108A Quaternary structure Relative activity % A Molecular mass (kDa) Fluorescence ( ) ( Fluorescence intensity Condition ( ----- ) 0mM DTT ) Table 1 0 10 20 30 40 50 60 70 80 60 70 80 Time (min) ) 339 nm 346 nm 20 (-----) 230 40 A 60 Cys108 ☆ Cys82 ☆ 1mM DTT 80 Fluorescence ( ) ( Fluorescence intensity Fluorescence intensity Fluorescence intensity 100 0 0 300 350 400 450 Emission wavelength (nm) 10 20 30 40 50 Time (min) Emission wavelength (nm) Fig. 1. Fluorescence spectra of pro-TY ( ) and acid-TY (----) with an excitation wavelength of 295 nm. acid-TY の SDS-PAGE を行った結果、pro-TY と分子質量 に変化は見られなかった。混入したプロテアーゼによるプロ セシングなどは酸活性化に関与しないと言える。 pro-TY と acid-TY をそれぞれ 0.1M EDTA で処理し、脱塩 した後、原子吸光でタンパク質あたりの銅原子濃度を測定 した。この結果、pro-TY にはサブユニット 1mol あたり 2mol の銅原子が確認され、acid-TY には銅原子は含まれていな かった。このことから酸活性化により構造が変化して活性中 心が露出したと考えられる。 ネイティヴ状態におけるゲルろ過から、pro-TY と acid-TY の分子質量はそれぞれ、266kDa と 165kDa であった (Table 1)。pro-TY は四量体で、acid-TY は二量体であることが示唆 された。四量体の pro-TY が pH 7.0 から pH 3.0 になったとき 二量体に解離し、活性中心の銅原子が露出すると考えられ る。この酸性条件、または SDS により解離する二量体間の 結合には極性相互作用が関与していると考えられる。 CD スペクトルの解析から pro-TY と acid-TY の二次構造に 大きな変化は見られなかったが、三次構造に大きな変化が あった。またトリプトファン蛍光スペクトルでは酸活性化によ りレッドシフト (339nm→346nm)と蛍光強度の減少が見られ た (Fig. 1) 。 疎 水 性 ア ミ ノ 酸 残 基 に 結 合 す る 蛍 光 試 薬 8-anilino-1-naphthalene sulfonic acid (ANS)と pro-TY または acid-TY を反応させたところ、pro-TY では ANS の結合はほ とんど見られなかったが、acid-TY には ANS が結合した。こ れらの結果から、酸活性化により三次構造に顕著な変化が おき、これに伴って疎水性残基が露出することが示された。 還元状態におけるゲルろ過では pro-TY は 68kDa となり、 Fig. 2. The reverse-phase HPLC of trypsin-digested tyrosinase in the absence or presence of DTT. 単量体であった (Table 1)。このことから、サブユニット間の 結合にジスルフィド結合が関与していることが示唆された。 このジスルフィド結合は活性型の acid-TY の二量体を保持 していると考えられる。 システインに特異 的 に結合す る蛍 光試薬 4-fluoro-7-sulfamoylbenzofurazan (ABD-F) を 用 い て 、 pro-TY のトリプシン断片から遊離システインを含むペプチド を逆相 HPLC により分取した。このアミノ酸配列を決定したと ころ、このペプチドは Cys82 を含む配列であった。Cys82 の みが遊離システインであることがわかった (Fig. 1)。1mM DTT 存在下において同様の実験を行った結果、Cys82 と Cys108 をそれぞれ含むペプチドが同定された (Fig. 2)。 Cys82 は銅原子の配位子の 1 つであることが報告されてい る[12]。Cys108 とジスルフィド結合の対となるシステインが見 られないことから、Cys108 は他のサブユニットの Cys108 と分 子間のジスルフィド結合を形成していることが示唆された。 その他の 6 つのシステイン残基は分子内のジスルフィド結合 に関与していると考えられる。C108A 変異遺伝子を作成し、 野生型酵素と同様に大腸菌により発現を行ったところ、 68kDa の単量体 C108A (mono-C108A)と 380kDa の多量体 C108A (oligo-C108A)が生産された。mono-C108A には酵 素活性がまったくなかったが、oligo-C108A は酸活性化を経 て活性をわずかに示した (Table 1)。これらのことからサブユ ニット間のジスルフィド結合を形成する Cys108 は、acid-TY が二量体を保持するために重要な残基であり、活性に必須 のシステインであることが示唆された。 Table 2 Kinetic parameters of wild type and mutant 1,2- -mannosidases. Mutant Km kcat (mM) (s-1) Wild type 0.28 2.5 9.04 E124Q E124D D269N D269E E273D E411Q E411D E414D E474D 0.13 0.49 N.D.a 4.8 7.0 N.D.a 8.0 8.6 6.4 0.0078 0.022 N.D. a 0.51 0.37 N.D. a 1.4 0.037 0.023 0.062 0.044 N.D. a 0.11 0.054 N.D. a 0.18 0.0043 0.0036 (%) 100 0.7 0.49 1.2 0.6 2.0 0.05 0.04 Standard error in kinetic parameters: Km (±2.6-10.4 %) and kcat (± 1.8-4.8 %). a: N.D. = not detected. Relative activity %) Relative activity ((%) 100 80 60 40 20 0 2 3 4 5 pH 6 7 Comparison of kinetic parameters andTm of WT, C334A, C363A and C443A. Enzyme kcat/Km (s-1 ・ mM-1) Table 3 8 Fig. 3. pH-activity profiles of wild type 1,2- -mannosidase (─○─), E124D (- - -□- - -) and E124A (- - ▲ - - ) mutant enzymes represented as relative activities. The absolute activity value of the E124A mutant at pH 5.0 corresponds to about 0.015 % of the wild type enzyme activity. 3. A. saitoi 1,2- -マンノシダーゼの触媒中心の決定と Ca2+ の役割 E124Q、E124D において kcat 値の著しい減少が見られた (Table 2)。これは E124 の位置に部位特異的変異によって、 触媒反応が大きな障害を受けていることを意味している。 E124Q、E124D の Km 値は、野生型酵素と比較して本質的 な変化は見られなかった。このことから、E124 は触媒反応に 直接関与していると結論できる。さらに、E124D 変異酵素の pH−活性プロファイルでは、至適 pH が 5.0 から 4.0 に変化 した(Fig. 3)。この結果は E124 が直接触媒反応に関与して いることを支持している。E124A の変異の導入により、pH-活 性プロファイルの塩基性側の活性が特に大きな減少が見ら れた。一般的に至適 pH の塩基性側の活性は、酸触媒に影 響を受ける。このことから、E124 は触媒反応時において、カ ルボキシル基の状態で存在しており、酸触媒であると推定さ れる。 通常、糖質分解酵素の触媒反応には 2 つの酸性アミノ酸 残基が関与する。P. citrinum の結晶構造解析から、もう一方 の触媒アミノ酸残基として最も有力な候補は D269 と E411 である。D269N と E411Q 変異酵素はそれぞれ酵素活性を 完全に失っていた(Table 2)。しかし、D269E と E411D 変異 酵素はどちらも決定的な kcat 値の減少が見られなかった。こ れらの残基の位置に酸性アミノ酸残基があることが、酵素の Km kcat kcat/Km Tm (mM) (s-1) (s-1 ・mM) ( C) WT 0.719 0.013 8.51 0.09 11.8 55.8 C334A 0.296 0.006 3.87 0.12 13.0 49.6 C363A 0.780 0.007 9.48 0.03 12.2 49.6 C443A 0.719 0.007 6.67 0.04 9.3 51.9 Tm is a transition midpoint, which is an apparent value because the thermal denaturation is not reversible. a Table 4 Specific activities, melting temperatures (Tm) of Cys443 variants and amino acid properties. Specific activity Tm Van der Waals volume a (m katal / kg) ( C) (Å3) Cys (WT) Thr Ala Gly Ser 47.4 44.9 38.3 44.0 47.1 55.8 52.8 51.9 50.2 50.0 86 93 67 48 73 +2.5 - 0.7 +1.8 - 0.4 - 0.8 Asp Val Leu Met 19.8 20.7 11.7 14.5 N.D.c N.D. N.D. N.D. 91 105 124 124 - 3.5 +4.2 +3.8 +1.9 Asn Ile Phe Tyr d 96 124 135 141 - 3.5 +4.5 +2.8 - 1.3 Amino acids at position 443 Hydrophobicity b : The data are from: Richards, F. M. (1974) J. Mol. Biol., 82, 1-14. The data are from: Kyte, J. and Doolittle, R. F. (1982) J. Mol. Biol., 157, 105-132. : Tm values were not determined because the mutant enzymes were denatured structures. d: Mutant enzymes were not secreted to culture media. a b: c 触媒反応に必須であるようである。E269N、E411A 変異酵 素に対して、外来性の求核基 NaN3 は酵素活性を回復させ なかった(data not shown)。もし D269 と E411 のどちらかが塩 基触媒であったとしたら、これらの変異酵素は N3-などの外 来性の求核基により酵素活性が回復する可能性がある。し かし、結果はそうならなかった。このことから D269 と E411 は 一般的な意味での塩基触媒ではないと考えられる。1,2-αマンノシダーゼの触媒反応機構は、従来の典型的な糖質 分解酵素とは異なることを明らかにした。 E273D、E414D、E474D 変異酵素は kcat 値の減少と、Km 値の増加が同時に見られた(Table 2)。このことから E273、 E414、E474 は基質結合に関与し、基質をより反応しやすい 構造に変化させていると考えられる。E273、E414、E474 は 基質結合に関与する残基である。 一般的には 1,2-α-マンノシダーゼの酵素活性には Ca2+ が必須である。しかし、原子吸光による解析から、A. saitoi 1,2-α-マンノシダーゼは Ca2+を結合していなかった。EDTA による阻害の形式を見たところ、EDTA は酵素活性を拮抗 阻害することがわかった。本酵素は二価の金属イオンを結 合していないと言える。本酵素に Ca2+処理を行ったところ、 タンパク質 1mol 当たり、およそ 1 mol の Ca2 が結合するこ とがわかった。しかし、Ca2+を結合した酵素と、Ca2+を結合し ない酵素では動力学的パラメーターに変化が見られなかっ た(data not shown)。A. saitoi 1,2-α-マンノシダーゼに Ca2+ は必須ではないと言える。酵素活性に Ca2+ を要求しない 1,2-α-マンノシダーゼが初めて見出された[13]。 4. A. saitoi 1,2- -マンノシダーゼのシステイン残基の役割 ABD-F を用いて A. saitoi 1,2- -マンノシダーゼのトリプシ ン断片から遊離システインを含むペプチドを逆相 HPLC に より分取した。このアミノ酸配列を決定したところ、このペプ チドは Cys443 を含む配列であった。Cys334 と Cys363 はジ スルフィド結合に関与し、Cys443 は遊離チオール基を含む ことが明らかとなった。 C334A と C363A, C443A 変異酵素の反応動力学的パラメ ーターは野生型酵素 (WT)とほぼ同じであった (Table 3)。 3 つのシステイン残基は酵素活性に関与しない。 C334A と C363A の熱融解温度 Tm はどちらも 49.6℃となり WT より 6.2℃低かった。Cys334 と Cys363 はジスルフィド結 合を形成することにより酵素の熱安定性に大きく寄与してい ると言える。 Cys443 について 12 種類の変異酵素を作成し熱安定性に ついて検討した (Table 4)。C443I, C443F, C443Y といった 側鎖が大きなアミノ酸のとき変異酵素は生産されなかった。 443 の位置の大きな側鎖によりタンパク質のフォールディン グが妨げられ、宿主の品質管理機構によりミスフォールディ ングタンパク質として認識され、除去されたものと考えられ る。 アスパラギン残基の側鎖は比較的小さいにもかかわらず C443N も生産されなかった。445 の位置はトレオニンであり、 443 がアスパラギンになったことでアスパラギン結合型糖鎖 の潜在的な付加部位がうまれる。C443N の Asn443 はおそ らくグリコシル化を受けており、この糖鎖が酵素にとって好ま しくなかったと考えられる。 C443D や C443M, C443L, C443V の比活性は WT の 50% 以下であった。CD スペクトルの解析から、これらの変異酵 素は部分的に変性した構造をしていることが示唆された。ア スパラギン酸とバリンはそれぞれ C と C に分岐を持つ。この 分岐の側鎖が酵素の変性を引き起こしたと考えられる。ロイ シンとイソロイシンは同じ van der Waals 体積を持ち、それぞ れ C と C に分岐を持つ。C443L は分泌されたが C443I はさ れなかった。C に分岐を持つイソロイシンの側鎖は、タンパ ク質が正規のフォールディングをするのにより大きな立体障 害となったと考えられる。メチオニンはシステインと同じく硫 黄を含んだアミノ酸である。C443M もまた部分的に変性した 構造であった。これはメチオニンの大きな van der Waals 体 積によるものであると考えられる。 C443A や C443G, C443S, C443T といった変異酵素は WT と同様の比活性を持ち、CD スペクトルから正規の構造を取 っていることが示唆された。C443T は最も熱安定性の高い 変異酵素であった。C443T の Tm 値の減少はトレオニンの低 い疎水性度によるものと考えられる。C443A は 2 番目に熱 安定性な変異酵素であった。その次が C443S であった。 443 の位置の疎水性度が酵素の熱安定性に重要であること が示唆された。C443G は熱に対して不安定な変異酵素であ った。システインがグリシンに置換することにより空隙がうま れ、不安定化を引き起こしたと考えられる。 以上から Cys443 に関する 12 種類の変異酵素を 3 つのグ ループに分類することができる。第 1 のグループは C443F と C443I, C443N, C443Y で、変異酵素が培地に分泌されずに 細胞内で除去される。第 2 のグループは C443D と C443L, C443M, C443V で、比活性が WT の 50%以下であり、部分 的に変性した構造を持つ。第 3 のグループは C443A と C443G, C443S, C443T で、比活性が WT と同程度であり、正 常にフォールディングしている。これらの結果から、A. saitoi 1,2- -マンノシダーゼの Cys443 は疎水性パッキングを増加 させることにより酵素の熱安定性を高くする役割があること が示唆された[14]。 5. 参考文献 1. 一島英治 (2002) 発酵食品への招待−食文明から新展 開まで−, 裳華房. 2. 一島英治 (2004) 日本の国菌コウジキン, 日本醸造協会 会誌, 99 巻 2 号, p. 83. 3. 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